2018年も残すところあと一日となりました。
今年はキッズロルフィングを開催したり、新しい先生の通訳をさせてもらったりと、仕事でも新しい学びや刺激が多く、プライベートでも子供が増えて楽しい時間が増えました。しかし、同時に家族と仕事のバランスで大変な時期もありました。家族が健康ではじめてバリバリ仕事ができることを痛感した一年でした。来年も、上手くバランスを取りながら、一年を有意義に過ごしていきたいです。
Center of Integrative Movement Assessment(IMAC)では、今年もテンションが上がってしまう色々な学びと発見があったので、備忘録として今年最後のブログに残しておきます!
【IMACのはじまり】
IMACは、もともとMuscle Activation Techniques(MAT®︎)と呼ばれる手法の可動域評価・筋テストと、ロルフィング®︎的な筋膜へのアプローチに関係性がありそうだな、という観察をまとめていったものです。
内臓マニピュレーションで臓器にアプローチした際に可動域が改善され筋出力も上がったことから、筋肉だけではなく筋膜だったり神経系の状態が可動域と関係しているんだろうと考え、私はかれこれ8年ぐらい前からロルフィングの施術でもその評価法を取り入れて使っていました。そもそも、MATの評価法を知っている人が少ないし、同時に内臓マニピュレーションや筋膜的アプローチを行う人も殆どいないので、そういった発想・着眼点で体にアプローチしている人がいないのです(汗)。しかし、そのアプローチ方法を学びたいという要望があったのでセミナーを開くことになり、単発でのセミナーではなく継続的に学んでいけるプログラムにしたかったことから、IMACが生まれました。元々は自分で探求していれば満足だったのですが、臨床での効果は間違いなくあるので、他にも同じ考え方を持って体と向き合う人が増えていったらより色々なことがわかってくるだろうし、自分以外にもそういう見方をする人が増えることでディスカッションがしたかったというのも理由の一つです。
2015年の12月にイントロのクラスを初開催させてもらい、IMACという形で自分の考え、アプローチ方法をまとめ始めました。もともとは「可動域評価→筋テスト→筋膜的アプローチ→筋テストで確認→可動域再評価」という流れでした。既存のアイデア・理解をもとに、こういう状態だとここに制限があると決め打ちして体にアプローチするのではなく、可動域を通して実際に体で制限があるところ、動きの代償がどこにあるのか見つけてアプローチしていくと効率的だし効果もでます。それと共に、しっかり可動域や肉体へのアプローチをすることで、曖昧な感覚だけで実際の効果が出ていない手技やアプローチになっていないかを評価しましょう!というのが主な目的でした。
2016年に各クラスで一通り全身を網羅していく中で、やはり筋肉ではなく、制限がある筋群・組織に共通する部位にバランスの崩れがあるな、というのが明確になって来ました。そこで、今まで使っていた可動域と筋テストから、より部位・体節・空間・可動域にうまく対応し、効率的に評価ができるように変化・改善していきました。MATでは「筋肉をテスト」するという方向から考えるので、それぞれの可動域評価は大雑把なのと、各筋肉同士の関係性という見方はしていないです。IMACでは逆に「動き」と「各筋肉の関係性」から見ていき、関節可動域の中で筋肉それぞれが担う作用という観点から、各部位を鑑別できるように考えていきました。2017年には追加で手足の細かい部分のクラスも行なったことで、より全体像、中心線、体の本来の楽な位置が明確になってきて、体の原則もまとまってきました。例えば、両側遠位で可動域制限がある場合、中枢に問題がある、と言ったような原則ですね。
【2018年IMACの流れ】
その流れの中で、2018年のクラスは筋テストを別のクラスにするように構成を変更しました。これは、筋テストを行うことで施術の流れが途切れる、神経的にストレスを加えてしまう、筋テストのできない(やりづらい)筋群を含められないという弱点があったからです。例えば、外側翼突筋のような筋肉。もう一つは、可動域までは良くても筋テストが入ってくると、角度や力のかけ具合など細かい情報が多くなり、習得するのが難しい人が多かったのも理由の一つです。筋テストを知ることで、トレーニング中に筋の状態を確認できたり、アイソメトリックで弱い筋肉に的確に刺激を入れたりできる利点もありますが、もともとIMACは色々な要素が含まれていて情報量が多いので、できるだけシンプルにエッセンスを抽出していくように考えていきました。
そこで2018年はIMACの醍醐味である「体全体の関係性を可動域を通して把握していく方法」を伝えていく、ということに焦点を置きました。股関節を例に説明したのはこちらです。筋テストをしなくなった代わりに大雑把な可動域から細かい可動域へと詳細を評価していくことで、筋テストを行わなくてもかなり部位を絞り込めるようになった印象があります。
同時にアプローチ方法も、直接法的なアプローチだけではなく「ニュートラル」を取るというアプローチも導入し始めました。頭蓋や口腔へのアプローチも紹介する際に直接的アプローチだけだと厳しいと考えたのが理由としてあります。自分が内臓にアプローチする時にも滅多に直接法は使わないので、頭蓋や内臓といった内容をクラスで紹介する前に手の感覚を養ってもらい、練習するために導入しました。
【今年一つ目の大きな発見】
そんな流れがあり、今年一つ目の大きな発見に至りました。それは、3月に脊柱評価のクラスを行なっていた時のことでした。軸骨格の評価方法とアプローチを紹介していくクラスでしたが、胸鎖乳突筋は迷走神経や横隔神経との関わりも深そうだし、頭頚部の動きに大きく影響を与えている筋肉なので、可動域評価法とアプローチ方法を紹介していた時でした。その可動域評価(頭部伸展+頚部屈曲+頚部対側回旋)が初めてだと少しややこしいのですが、参加者の人がたまたま間違えて対側でニュートラルを取ろうとした時に、制限があった側の可動域制限がなくなってしまったのです。
!!!!え?!!!!
胸鎖乳突筋は体の中でも少し特殊な筋肉で、肋間の反射点を刺激した時には、他の筋肉は同側のみで反射作用が起こるのに、胸鎖乳突筋は両側で反応が出たりするようなので、これはたまたま胸鎖乳突筋だからそういう効果が出たのかな、とはじめは思いました。そこで、他の体の部位で可動域制限を見つけて、それに対して健側(可動域制限がない側)でニュートラルを取ると、「あら不思議!」可動域制限が取れてしまうという現象が体のどこの可動域制限に対しても起こったんです。つまり、左の股関節の内旋制限がある際に、右の股関節の内旋位でニュートラル(一番楽な場所)を見つけると、左の股関節の内旋制限が解消してしまうのです!
これは、かなりの衝撃でした。脊髄反射的には同側前後(屈筋と伸筋)の筋肉だけではなく、対側の筋肉も反射作用(同側屈筋が活性すると、同側伸筋と対側屈筋が抑制)があるのは知っていますが、ニュートラルを健側で取ると患側に変化が出るとは!
え?ニュートラルってこんな感じで変化しちゃうの?という感じでした。ニュートラル自体を使う人が殆どいない訳です。使うとしても関節、もしくはバイオダイナミクスのようにもっと体全体です。そもそも、筋筋膜でのニュートラルという概念すらなかったです(ニュートラルと間接法は違います)。ましてや健側で探すなんて、考えたことがありませんでした。本で読んだだけのものも含めると私は色々な手技療法を知っているとは思いますが、ニュートラルを健側でとるアプローチは今まで聞いたことがないです。操体法が楽なところを探すという意味では似ている感じもありますが、IMACの可動域検査法は各関節ごとに細かいので、よりアプローチする部位もスペシフィックになりますね。
健側でニュートラルを取るとビックリするぐらい変化が早く、組織の状態も一瞬でフワフワになってしまいます。可動域を向上させるだけならストレッチでもできるのですが、それだと筋抑制してしまうので一時的ですが筋出力が落ちます。ストレッチの効果がなくなり、筋出力の抑制が収まった時には、一時的に改善していた可動域の向上もなくなっていることも多いです。では、健側でニュートラルをとった場合の変化はどうかというと、患側の可動域制限がとれ、また筋出力も向上しました!健側でニュートラルを取ると、患側の働いていなかった筋肉が働くようになり、可動域制限も改善したんです!頭ポリポリするしかないですね。
部位によってはニュートラルのポジションが取れただけで変化してしまう時もあるので、ストレイン・カウンターストレインとも違います。反射作用にしては反応が早すぎる感じがして、生理的に何が起こっているのかは良く分からないです。ニュートラルは一番抵抗が少ないところで神経伝達の発火も最小になるはずなので、体が自然にリセットできるのか、今年の筋膜学会でも話題になっていた間質液に好影響が出るのか、筋膜のまだ知られていない働きなのか、いくら考えても答えは出ないですが、とにかく変化するんです!
論文で「ニュートラル」を検索しても出てこないですし、EBPが推奨される時代に全くと言って良いほど科学的根拠がなくて困ってしまいます(泣)。神経生理学に詳しい人で、何かアイデアがあったら教えてください。臨床的な変化と効果は間違いなくあるので、これから色々とわかってくると良いですね。ちなみに、鍼灸治療やエネルギーワークでも対側だったり、上肢の症状に対して下肢にアプローチする時があります。
【フーのフー】
ちょうどそのクラスの前に通訳をしていた時の先生が、エンドフィール(止まる感じ)をダッ、ダッ、と表現していたので、私たちもクラスでは制限をダッ、そしてニュートラルは抵抗がなく一番柔らかいところなのでフーとオノマトペを用いて伝えていました。
その感覚をもとに患側は制限があるのでダッ側、健側は制限が少ないのでフー側になり、フー側でニュートラル(フー)ということで、健側のニュートラルを取るというアプローチ方法に「フーのフー」という名前がつきました。どれだけふざけたネーミング!と思われるかも知れないですが、オノマトペを使った方が体感覚を伝えやすいとか言われたりしますからね(笑)。
「フーのフー」だけを聞いたら「なんのこと?」という感じですが、実際に紹介して体感してもらうと、その変化の早さと簡単さに皆さん驚きます。大事なことですが、私だけができるものでもなく、他の人も感覚でわかる現象です。また、伝統的オステオパシーの先生方が使っているニュートラルの場合、かなり経験がないと分かりづらいのですが、「フーのフー」の場合はすでに制限がある場所、可動域が分かっている状態で探していくので、経験と感覚だけで探していくよりも見つけやすいです。
もちろん、ニュートラルを的確に捉えられるか、終わりの感覚が明確かなど、習得するまでには練習と反復も必要ですが、体に触れ慣れていて、機能解剖学が詳しい人であるほど、的確に捉えらえるようになるのが早い印象があります。二日間のクラス数回だけで、ある程度ニュートラルを捉えられるようになる、もしくはその感覚がわかるようになるのは、他の手技療法の1クラスが数日という長さを考えても、凄く効率的だと思います。ニュートラルを的確に捉えられていると可動域が変化するので、自分がキチンとできているか客観的に把握できるのも大きいですね。
これが、今年第一の発見でした。かなりの衝撃で、自分のアプローチ方法もガラッと変化してしまいました。「フーのフー」を発見してから、実際のセッションの中でもそれを使い始めたのですが、制限が取れていくのがビックリするぐらい早いです。手技で圧を加えたりしなくて良いので、神経系もドンドン落ち着いていきます。マニピュレーションと違い、筋膜などの組織に局所で圧をかけないで四肢のポジションを取るだけで良いので、可動域制限がある色々な部位を一度に改善できるようになりました。すると、次第にある部位の可動域制限と共通して出てくる可動域制限にも気づくようになってきました。そのパターンに一番当てはまっていたのが筋膜層との関係だったので、いくつか筋膜層に関する本を引っ張り出してきて参考にしながらまとめていくことで、体の繋がりがより明確になり始めていました。筋膜層の関係は、Dr. Steccoの筋膜系の機能解剖アトラスがオススメです。
【第二の発見】
次の大きな発見は、その流れの状態で内臓のクラスを開催した時でした。臓器の状態を表す神経リンパ反射点というのがあります。また、そこをモニター点として使ったアプローチというのを数年前から行っています。さらに、その反射点がある部位の筋骨格系にも影響が出るので、このクラスでは筋骨格系と臓器の関係、また神経リンパ反射点をどのようにモニター点として使いながら臓器にアプローチしていくかというのを発生学と共に学びます。そのクラスの参加者で鍼灸師の方がいたので、ちょっと実験で神経リンパ反射点で出ている制限がある臓器と、経絡に関わる動きで関係性がないか、そして実際に経穴にアプローチしたらどうなるか、というのを実験させてもらいました。
すると、大腸の反射点である大腿外側に制限がある人が、実際に大腸を触診した際にも硬さがあり、また大腸経と関係の深い肩の外転・手首の伸展に関わる動作で制限がありました。それを下腿の下合穴の上巨虚という大腸に関係があると知られている経穴(ツボ)にアプローチしてもらうと、あら不思議、反射点も良い状態になり、大腸もゆるゆるになり、肩の可動域も改善してしまったのです!
フーのフーで行った際にも同じように筋骨格系の可動域制限が取れ、反射点も良くなり、臓器の質感も変化しました!!つまり、左肩の可動域制限、左側の下行結腸、左大腿外側の張りが右肩でニュートラルを取ることで全て改善してしまうのです(汗)。ちょっと待ってくれ〜という感じですが、体はそのような関係性になっているようです。そこから、経絡と各筋肉・可動域との関係性を改めて探求しはじめました。
すると、以前から意識していた筋膜層とのメカニカルな繋がりがより明確になりだしました。臨床で観察していた親指の可動域制限と股関節の可動域制限の関係性なども、下肢の陰経との関係を考えていくと明確に理解できるようになってきたんですね。
経絡と筋膜の関係については、アナトミートレインや筋膜マニピュレーションにも関係性が示唆されています。また、Muscle & Meridiansという本も経絡の反射作用としての役割、そして筋肉との関わりをまとめていたり、Mテストでも可動域と経絡をどう臨床で用いるかが述べられています。Mテストの場合はストレッチされている経絡でみるので、短縮位になっていく部位でみていくIMACとは逆です。
このように、以前から経絡と筋膜の関係に興味があったんです。しかし、MATの評価をもとに細かくみていくと、臨床で実際にはそのような関係性になっていない時や、分類が大まかすぎて納得できない時が多かったので、今までそれらの本で紹介されている繋がりは概念として知っているだけで、実際に臨床では使っていませんでした。今回の発見をキッカケに改めて経絡との関係を筋膜層と共に検証し、IMACでの可動域評価と「フーのフー」を用いていくと、臨床でも驚く変化が得られるようになりました。体全体のつながりの理解がさらに増し、それに伴い実際にどう変化しているかも把握できるようになりました。
IMACの可動域評価、筋肉と可動域の対応図が8〜9割満足できはじめてきたと思っていたところで、こうして新しい情報がさらに加わってきました。しかし、そのおかげで全身の可動域の繋がりと、それぞれの関係性がさらに明確になっていきそうです。可動域と筋肉、そして経絡との関係がもっと整理できてきたら、五行と五臓六腑だけではなく筋骨格系、そして動きとの関係性もわかってくると思います。IMACを始めた当初から、可動域でエネルギーワークの評価もできますよ、という話はしていたんですが、いよいよそれが形になろうとしています。
2015年にIMACを始めた時、そして、2018年が始まった時には、こんな方向に進んでいるとは思いもしなかったです。来年は、どんな発見があるのでしょうか?今ある情報をまとめて、伝えていくことで自分が毎日感じている驚きを伝えられると考えるだけでもワクワクします。独自の進化を始めたIMACが2019年はどのような方向に進んでいくのか、とても楽しみです。
また来年もTENを中心に、色々な場所でIMACをはじめ、色々なことを共有させてもらい、セッション、セミナー、通訳を通して沢山の人達とお会いできるのが楽しみです!!